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希死意無ハウス

多分絵とかクソSSとか作る。

私達の行く先は天ではなかった。

第壱話 青川現奈の場合①

 朝目覚めた私はぼんやりとした頭でカーテンを開けた。
今日もカンカン照りの夏の日。
まぶしさに私は思わず目をぱちくりさせる。
そして窓を開けると、もわ~っとした生ぬるい風が流れてきてなんかがっかり。
もう少し乾燥してたら気持ちよく起きられるのになぁ。
せっかくまぶしさで気持ち上がったのに台無しかも。

 でもこんなことを考えてる場合じゃないの。私には日課があるんだから。
私の日課は近くの海水浴場が開く前に朝早く砂浜を見に行くこと!
これがと~っても楽しいんだよ?
…なんでって?ああそっか、私のこと色々話したほうがいいよね!

 私の名前は青川現奈(あおかわあらな)。
海(波さんって呼んでる)と会話し、操ることのできる、海が崎市で……いや、世界でただ一人のステキな存在なの!
でもみんなは私が波さんとお話出来ることは気が付いてないし、それどころか私のことを変な子だって言う子もいる。
でもねでもね、私にはもっとすごい秘密があるの。

 それは「液体の記憶を読み取る」ことが出来るってこと。

 どんな液体でもすこーし舐めるだけで、どんなところを通って、何を見てきたかが……ぜーんぶわかっちゃうの。
頭の中にちゃんとした思い出として、映像として、流れ込んでくるの。まるで私そのものが体験したみたいに……。

 そんな力から私は波さんと会話出来る。
たまに砂浜に流れ着く元人間(死体)がなんで死んだかも簡単にわかっちゃう。
まるで探偵さんみたいでしょ?誰にも内緒で秘密の素敵な探偵さん。

 ここまでで分かった?私は今から遺体さんを探しに行くの!
 まだ寝癖が残ってる青い髪を赤いお気に入りのリボンで三つ編みにして急いでさぁ出発。
普通はこの時間にはまだ海水浴場には入れないんだけど、警備のお兄さんに言ったら入れるの。
なんでかってこないだ改めて聞いたらね、「君の親が海の家の経営をしてっから現奈ちゃんは特別に入れてあげるっす。…皆には内緒っすよ?」だって。
パパやママにはバレたくないし言わないけど、バレたらヤだなぁ。まぁこうやって通してくれるからなんでもいいんだけどね。
 今日も警備のお兄さんに挨拶して、警備員さんが見えなくなったところまで来たら遺体さんがいないかを探してみるの!
少なくとも砂浜には流石にいないみたい…。隅の岩場に行ってみるけど……うーん、今日は遺体さんいなさそうかなぁ。

 でも、"あの子"ならなにか知ってるかも! 私は海に向かって語りかけた。

 「波さん、いる?」
─もちろん。おはよう、きょうもはやいんだね─
「うん、おはよ。ね、今日は遺体さん流れてきてなーい?」
数秒の沈黙。
─みていないよ─
「ほんと~?隠し事してない……?」
─みてないってば─
「そっかぁ…今日の波さんは強情なのね」
─はやくかえらないと『ぱぱ』におこられるよ?─
「むぅ……じゃあまた後でね!」
 うーん。たまにいるんだけど、波さんが言うには今日はいないみたい。こういう日の方が多いから明日に期待しよ~っと。
ま、自殺が多い場所って言われてるからそのうちまた見られる気がするし(だからこそ警備員さんがずっといるんだけどね)。
……本当は、それらはほとんど自殺じゃないって遺体さんの血が『言って』いたんだけど。

 朝の日課を終えた警備員さんに手を振ってパパとママが起きる前に急いで家に戻る。

 お家は海辺から歩いて数分のところにあるからすぐに帰れるの。
ママは家から海が近いからって「災害が怖いから引っ越したいけど…」ってよく言う。
でも私の力があればなんてことないのよね。私が波さんと協力したら大丈夫なはずだもん。
それに、海がないと私たち家族は生きていけない。夏の間の海の家もそうだし、夏以外はパパが遠くに漁に行ってるし。

 話が逸れちゃった。
それでね、私はただいまも言わずそーっと玄関の扉を開けた。毎日やっているのに、この瞬間は慣れなくてドキドキする。
そしてうっすら開いているパパとママの寝る部屋をそっと覗く。
よかった。まだ起きてないみたい。毎朝外に出て死体探してるなんて知られたくはないもの。
心臓が軽くバクバクするのを我慢しながら、朝ごはんを作るために忍び足でキッチンに向かう。

 お湯をひねって手を洗ったところでやっと一息がつける。そして私は考える。

 今日の波さん、変だったな。ううん、きっと気のせい。
私ですら秘密があるんだもん、波さんにだって秘密はあるはず。
でも、いっつも体──というか海水──は冷たいけど言葉?はあったかいのになぁ。
いつも、飛び込みたくなるくらい、仲良くしてくれるのになぁ。
なんで遺体さんがいるか聞いたとき、黙ったんだろう。秘密、後で聞いてみようかなぁ。

 ……そうだった、朝ごはん。朝ごはん。こんなことずっと考えててもしょうがないよね。
二人が起きる前に作らないといけないもん。だって朝ごはんは私の仕事だし。
朝ごはんは何を作ろうかなぁ。あまーいフレンチトーストでも作ったら喜んでくれるかなぁ?

青川現奈の場合①

2019/06/28 up
2021/01/01 修正

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